Borghino Guitars

「サウンド、デザイン共に完璧でなければならない」というポリシーのもと製作しているイタリアのルシアーMirko Borghino(ミルコ・ボルギーノ)によるBorghino Guitars。

ミルコ氏は2000年にミラノ市立製作学校(Civica Scuola di Liuteria di Milano)を首席で卒業し、その卒業製作ではイタリア・ジャズ界の巨匠フランコ・チェリ氏の長年愛用してきたビンテージのギブソンL-5をのレプリカを製作。この経験は伝統的なアーチトップ製作技術を深く習得する機会となり、チェリ氏との縁から、後に2015年にはフランコ・チェリのシグネチャーモデルを製作する機会も得ています。卒業後、ミルコ氏はイタリア北部ガルダ湖畔のデゼンツァーノ・デル・ガルダ(ブレシア県)に工房を構え、ギター製作に専念します。同時に母校での指導など製作学校で教鞭も執り、後進の育成にも力を注いでいます。

「楽器は演奏者にとってオーダーメイドの衣装のようであるべき」という考えに基づいて製作が行われています。演奏者が自身の個性を最大限表現でき、音響面でも美的にも演奏者を100%体現するよう、一人ひとりに合わせたカスタムメイドの楽器を追求しています。ミルコ氏は「自身の作る楽器が、単に音楽というアイデアを形にする手段に留まらず、その楽器自体が音楽へのインスピレーションの源であってほしい」と語っています。このようにサウンドとデザインの両面で完璧を目指すというポリシーのもとで製作が行われており、緻密なイタリア職人技による高品質なクラフトマンシップがブランドの信条です。

ブランドの知名度は国際的にも高まっており、2019年にはロールスロイス・エンスージアスツ・クラブ(Rolls-Royce Enthusiasts’ Club)から招待を受け、同クラブ創立110周年記念書籍への掲載を通じてコラボレーションを行いました。その際にロールス・ロイスの伝統と革新の美学に着想を得て生まれた特別モデル「The Lady(ザ・レディ)」は、ロールスロイス公式公認のギターとも称され注目を集めました。

また、2025年のロサンゼルスNAMMショーでは、ジョン・マクラフリンとの共同開発モデルである「Shakti DeLuxe(シャクティ・デラックス)」がブティックビルダー部門の最も注目を浴びたギターとして注目されました。

プロミュージシャンからコレクターまで「要求の厳しい演奏家のニーズを満たし、目の肥えた収集家の興味をもくすぐる」唯一無二のハンドメイド楽器を提供するブランドとして評価されています。

Borghino Guitarsでは、用途や音楽ジャンルに応じて多彩なモデルを展開しています。代表的なモデルとその特徴を以下にご紹介します(※基本的に受注生産のため仕様はカスタマイズ可能ですが、ここでは標準仕様とコンセプトをご説明します)。

ルシアー

Mirko Borghino(ミルコ・ボルギーノ)

2000年、ミラノ市立製作学校(Civica Scuola di Liuteria di Milano)を首席で卒業。
卒業制作では、ジャズ巨匠フランコ・チェリ氏が所有するビンテージGibson L‑5を忠実に再現したレプリカを製作し、その成果が評価されて2015年にはこの再現モデルがチェリ氏のシグネチャーモデルとして制作されました。卒業後もも研鑽を積み、アーチトップからフラットトップのアコースティックやクラシックギター等、幅広いギターを手がけてクリエイティビティを磨いてきました。

高級楽器は、演奏者に合わせた一点物でテイラーメイドのドレスのようであるべきという考えから、各ミュージシャンの演奏スタイルや美的嗜好に応じて、一台一台をオーダーメイドで仕上げます。
カテゴリにとらわれず自由な発想で楽器を生み出すことも信条としており、「自らの創造性をある特定の型にはめて限定したくない。ただ、感情を伝えられる楽器を作りたいだけなのだ」と述べています。木材選びから構造設計、装飾に至るまで細部にこだわり、音響面と芸術性を高い次元で融合させることを目指しています。その妥協のない姿勢は「サウンド、デザイン共に完璧でなければならない」という信念にも表れており、完成したギターは演奏性と審美性の両立で高い評価を得ています。

こうした製作哲学と技術に対して、世界の名だたるギタリストからも信頼が寄せられており、その中の一人のジョン・マクラフリン氏は自身の伝説的な13弦ギター「シャクティ」の再現をミルコ氏に託し、完成した新生シャクティ・ギターを弾いて「ついに完璧なシャクティ・ギターが手に入った」と絶賛しました。また、イタリア・ジャズギター界の重鎮フランコ・チェリ氏もミルコ製作のアーチトップ「Suprema(スプレマ)」を愛用し、そのサウンドと作り込みに太鼓判を押しています。

現在は、楽器製作のみならず、製作学校での指導も行い、後進の育成にも力を注いでいます。
このようにBorghino Guitarsの楽器とミルコ・ボルギーノ氏は、演奏家からコレクターまで幅広い層から高い評価と信頼を得ており、現代イタリアを代表するルシアーの一人と目されています。

モデル

BB1(ビー・ビー・ワン)

フランチェスコ・ブズーロ(Francesco Buzzurro)氏とのコラボレーションから生まれたユニークなアーチトップ・ナイロン弦ギターです。アーチトップ・ジャズギターの持つ輪郭のある音色と、クラシックギターの暖かいトーンを融合することを目的に設計されました。その結果、アンプに繋がなくても豊かな倍音を持つ響きを持ちながら、エレクトリック・ギター並みの演奏性と扱いやすさを両立した唯一無二の楽器となっています。ボディは16インチ相当のサイズで、表板にイタリア北部ヴァル・ディ・フィエンメ産の高品質なレッドスプルース、側・裏板とボディバインディングには美しいイタリア産のフレイム・ウォルナット(胡桃)が使用されています。ネックは軽量で鳴りの良いスペインシダー、指板とブリッジ、テールピースには堅牢なアフリカン・エボニーを採用し、ナット幅51mm・スケール650mmの仕様から分かるようにナイロン弦ギターらしい感触です。一方で駆動系にはRMC社製の各弦独立ピエゾピックアップを搭載しライブでの即戦力となる実用性も備えており、まさにステージ映えする一本です。

Miraggio(ミラッジオ)

モダンなデザインが目を引くフルアコースティック・アーチトップモデルです。約41cm(16インチ強)のボディ幅を持ち、非対称(アシンメトリー)形状のボディデザインを採用しているのが特徴で、高音側カッタウェイ部分のくびれを深く取ることでハイフレットへのアクセスを容易にしています。生音の響きを重視した設計で、アルペジオやコードを爪弾いた際に抱え込むような暖かく包み込むトーンを得られるよう工夫されています。表板にはアルパイン・レッドスプルースを使用し、側板・裏板には通常ヨーロッパ産のフレイム・メイプルを採用(注文により木材変更可)。ピックアップレイアウトもオプションがあり、よりピュアなアコースティックトーンを求める場合はピックガード装着のフローティング・ピックアップ、より太く前に出る音を求める場合はボディに埋め込み式のハムバッカーを選択可能です。コントロール類も要望に応じてピックガード上かボディ側面に配置できるなど、まさに「オーダーメイドのアーチトップ」と言える柔軟な対応がなされています。なお、7弦仕様の「Miraggio 7」もラインナップされており、7弦ならではの重厚な低音域を求める奏者にも応えています。

Shakti(シャクティ)

イギリスの伝説的ギタリスト、ジョン・マクラフリンのために特別に製作された13弦アコースティックギターです。もともと「シャクティ・ギター」は、1970年代にマクラフリンが北インドの弦楽器ヴィーナの奏法に触発され、ギブソンとアブラハム・ウェクター氏の協力で生み出した特注ギターでした。6本の通常弦に加え、指板下を斜めに通る7本のドローン(共鳴)弦を備えているのが最大の特徴で、演奏中に共鳴弦をストラムしてドローントーンを響かせたり、あるいは共鳴振動させて独特のうねりを生み出すことができます。また指板はフレット間を窪ませたスキャロップ指板になっており、これはヴィーナのように弦を押さえる際に指先が指板に触れず、かつ弦を縦方向に大きくベンド(チョーキング)できるようにする工夫です。オリジナルのシャクティ・ギターは大変画期的なものでしたが、長らく紆余曲折を経て行方不明になってしまい、1990年代以降マクラフリンは代替のギターで活動していました。

2016年にマクラフリンの要望を受け、新生シャクティ・ギターの製作に挑みました。彼は数年間にわたりオリジナルの改良点を研究し、ブレイシング(力木)パターンを一新して6本弦と7本弦のバランスが格段に向上した生鳴りを実現するとともに、7本のドローン弦を効率よく張り調弦する革新的な構造を考案しました。さらにプラスチック製パーツは可能な限り廃し、希少な高級木材を用いたことで外観の美しさも追求されています。こうして完成した新生シャクティ・ギターを手にしたマクラフリン氏は「ついに完璧なシャクティ・ギターができあがった」と賛辞を贈っています。

The Lady(ザ・レディ)

ロールスロイスのエッセンスを宿した特別なスチール弦アコースティックギターです。2019年、ミルコ氏はロールスロイス愛好家クラブから110周年記念プロジェクトへの参加を打診され、同社の象徴「フライング・レディ(Spirit of Ecstasy)」にインスピレーションを得てこのモデルを完成させました。。ロールスロイスの伝統と革新の融合という美意識をギターで体現することを目指した意欲作で、そのデザインには自動車の要素が巧みに盛り込まれています。例えば、ギターの表板には左右非対称に配置されたサウンドホールが設けられていますが、これはロールスロイス車のフロントライト(ヘッドライト)を思わせる配置と形状になっており、中央に大きな丸穴を開けないことで表板の有効振動面積を増やす効果も生んでいます。また、側板の上部肩部には演奏者側に向けたサウンドポート(モニターホール)が開けられていますが、その開口部の外形はフライング・レディ像の羽根飾りを模し、内部形状はスポーツカーのエアインテーク(エアスクープ)のような立体造形になっています。ゴースト・チューナーと呼ばれるヘッドの糸巻き機構も特筆すべき特徴です。通常は露出するペグ等の部品をすべてヘッド内部に収め、外観からチューニング機構が見えないよう工夫されており、ヘッド裏は継ぎ目のない滑らかなフォルムで非常に洗練された印象を与えます。さらにメイプル材を幾何学的にカットし角度を付けて貼り合わせたダイヤモンドカットのバック構造を採用しており、ロールスロイス車のボンネットから着想を得たというその多面体バックは視覚的な美しさだけでなく音響的にも響きの反射に良い影響を与えています。内部のパーフリング(装飾縁)や指板のポジションマーク、ロゼッタなどには金属素材(ジャーマンシルバー=洋白)が使われており、自動車のクロームメッキの輝きを彷彿とさせるアクセントとなっています。ストラップピンについても工夫が凝らされ、未使用時には穴を隠し必要なときだけ飛び出させるプッシュプッシュ式フラッシュストラップボタンを開発しました(これはロールスロイスの車のドアに備え付けられたワンタッチで出てくる傘の仕掛けにヒントを得たものです)。

以上のように技術と芸術の粋を極めたオリジナルの“The Lady”は非常に高価なコレクターズアイテムとなりましたが、ミルコ氏はこの思想を受け継ぎつつ装飾を控えめにして価格を抑えたバージョン“Lady Q(Quiet Lady)”を製作しました。Lady Qでは音響的・構造的クオリティはそのままに、過度な華美を排した「静かな贅沢(Quiet Luxury)」をコンセプトとしています。標準仕様ではトップ材にベアクロウ・アルパイン・レッドスプルース、サイド&バック材にマダガスカル・ローズウッド、指板・ブリッジ・バインディングにエボニーを使用し、ナット幅約43.5mm、スケール長642.6mmのボディに仕上げられています。音色は中音域に密度があり、ボディサイズの見た目を裏切る豊かな鳴りと落ち着いた品格を備えています。ロールスロイス社公認という希少性も相まって、ギター愛好家はもちろん自動車愛好家から見ても垂涎の一品となっています。写真のモデルはLady Qとなっております。

Bluesy(ブルージー)

伝統的なスタイルを踏襲したスモールジャンボ型のアコースティック・ギターです。Borghinoラインナップの中では最もオーソドックスなフラットトップに位置付けられており、様々なアコースティック音楽にマッチする万能選手です。ボディ形状は小ぶりなジャンボタイプ(約15.5インチ=394mm)で抱えやすく、それでいて深みのある鳴りを持ちます。表板にイタリア産スプルース、側・裏板に高級材ココボロを使用し、指板・ブリッジ・ヘッドプレート・バインディングにはすべてアフリカン・エボニーを合わせた贅沢な仕様です。ナット幅は標準で46mmとやや広め(オプションで変更可)で、フィンガースタイルの奏者にも配慮されています。ペグには信頼性の高いWaverly社製オープンバック・チューナーを装備し、ナチュラルな外観と相まってアコースティックギターの良さを前面に出したモデルとなっています

Suprema(スプレマ)

フルサイズのアーチトップ・ギターで、Borghinoのフラッグシップとも言えるモデルです。ミルコ氏が在学中に手掛けたギブソンL-5復元に端を発する系譜のギターであり、実際フランコ・チェリ氏のために製作されたシグネチャー・モデルもこのSupremaでした。17インチに近い大型のホロー・ボディを持ち、トップにはイタリアン・アルパイン・スプルース、バック&サイドとネックにはヨーロッピアン・フレイム・メイプル、指板・ブリッジ・テールピースにはアフリカン・エボニーといった伝統的かつ最高級の木材構成です。ピックアップはトップ板に穴を開けずに取り付けるフローティング・シングルコイルを採用し、バールが美しいシダーのピックアップカバー付きでルックスも美しく仕上げられています。

指板には14フレットジョイントでミディアムジャンボ・フレット、スケール長635mm(25インチ)でナット幅44.45mm(1.75インチ)(オプションで変更可)を採用するなど、モダンな演奏性も意識されています。Supremaはその名が示す通り「最高級」を目指したモデルで、往年の名器に匹敵するリッチなアーチトップ・サウンドと精緻な作り込みから、ジャズ・ギタリストを中心に高い評価を受けています。

派生モデルとして、女性ジャズギタリストのエレオノラ・ストリーノ氏向けにカスタマイズされたSuprema Strino(スプレマ・ストリーノ)も存在し、こちらはストリーノ氏の要望に合わせた装飾や調整が施された特注モデルとなっています。

Vertigo(ヴァーティゴ)

ジャズ・ギターとソリッド・エレクトリックの中間に位置するコンセプトで設計されたセミホロー/セミアコ的なエレクトリックギターです。14.3インチ(約36cm)の小ぶりなボディに薄めの厚みを持たせ、マホガニー材のボディ内部にブロックを持つ構造とすることで、フルアコほどハウリングに悩まされず扱いやすい一方、通常のセミアコよりもアコースティックらしいリッチな倍音を得られるよう工夫されています。ボディトップにはイタリアン・レッドスプルースを用い、ボディ本体とネックはマホガニー、指板とヘッドプレートには、アフリカン・エボニーという構成です。スケール長は24.75インチ(約628mm)、ナット幅も好みに応じて指定可能です。ブリッジは固定式の場合はSchallerの先進的なHannesブリッジ、またはビブラート仕様も選べ、サドルにRMC製の各弦独立ピエゾピックアップサドルを採用できるなどエレクトリックながら音作りの幅広さが魅力です。外観はサンバースト・フィニッシュが似合うクラシカルかつシャープなデザインで、ジャズからフュージョン、クロスオーバー系までこなせる懐の深いモデルとなっています。

Other Models

他にも、Borghino Guitarsでは顧客の要望に応じた一点物のカスタムモデルを数多く製作しています。Miraggio Portoro(ミラッジオ・ポルトロ)は、イタリア産の高級大理石「Nero Portoro(ネロ・ポルトロ)」をサイド&バックに用いた世界でも珍しいアーチトップギターで、その試みはNAMMショーでも話題を呼びました。やロールス・ロイス・エンスージアスツ・クラブ(RREC)のコレクターズブックにも掲載され、高い評価を得ました。

また、シモーネ・グイデュッチ氏のためにインド音楽の要素を取り入れたKarma(カルマ)というカスタムモデルを製作するなど、常に革新的で挑戦的なプロジェクトにも取り組んでいます。

これら特注モデルの製作経験からフィードバックされたアイデアや技術は、Borghino Guitarsの各ラインナップにも活かされており、結果としてすべてのモデルにおいて高い完成度と独創性が備わっています。